あの加藤とあの課長*SS集
首を傾げて、陽萌はクスクスと笑った。



『何それー、ヤキモチ?』



陽萌の手を握って、真っ直ぐに陽萌の目を見つめた。

陽萌は笑うのを止めて、俺の目を見返した。



『俺、陽萌が好きだ。たぶん、入社してすぐの頃から…。』



陽萌は俺から視線を外して、フッと小さく笑った。「分かってた」とでも言うように。

慣れてんだろうな…。



『付き合って、陽萌。』



陽萌は一瞬視線を彷徨わせた後、意を決したように頷いた。



『よろしくお願いします。』



きっと、こう思ったんだろう。

逃れられなくなる。

俺らには立場こそないけれど、今まで過ごしてきた時間がある。


それは下手をすれば、立場以上の枷になる。



『こちらこそ、よろしくな。』



そう言った俺に笑いかけた陽萌の顔を、俺は忘れないだろう。

入社4年目の春のある日のことだった。




「店長、どうかしましたか…?」

「あぁ…。」



棚を見つめてしかめっ面をしていたらしい俺に、声をかけてきた元店長。



「この配置は良くないなーと思って。」

「え…?」

「商品の良いところが相殺してる。」

「なるほど…。」



ここだけじゃない、他もだ。閉店後にでも、配置替えからやらないとな…。
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