あの加藤とあの課長*SS集
それから社員旅行のとき、2人が上手くいったと知って。

でも全然諦めがつかなくて、俺はこうして陽萌から離れることを選んだんだ。



「それにしても、君もよく働くな…。」



閉店後、商品の配置換えをする俺の作業をせっせと手伝う副店長を見やる。



「あはは。私、最近彼氏と別れたばっかりで…、こうしてないと未練が顔出して来るんで。」



そう明るく笑った。

俺は思わず彼女を凝視してしまった。


…なんだ、俺と同じか。



「本当、未練タラタラで…、お恥ずかしいです…。」

「未練なぁ…、難しいな、断ち切るのは。」



なんだか他人事に思えなくて、俺まで浸ってしまいそうになる。

他の社員が帰った後の、静かで薄暗い店内は、本社に入る前を思い出させる。



「でも、それでもいいかなぁって、思うんです。」

「へぇ…?」

「それだけ好きだった証拠だから、むしろ誇りにすら思えてくるって言うか…。向こうからしたら、さっさと踏ん切りつけろよって話なんでしょうけど。」



そう苦笑した彼女は作業を続ける。


(誇り…か。)

そんな考え方はしたことなかったな。



「自然にでいいと思うんです。恋するのも自然なら、未練がなくなるのも自然だと思うし。」



なんか、いいな。楽な方に逃げてるだけかもしれないけど。

俺からは生まれない発想だ。



「副店長。」

「は、はいっ。」

「名前、なんだっけ。」



そう言うと、彼女はポカンとした後、覚えてないのかとでも言いたげな視線を寄越した。



「蔦谷 瑠花(つたや るか)です、風間 直人店長。」




陽萌。

俺はお前を苦しめることの方が多かっただろうけど、本当に好きだったんだ。こんな台詞、お前は耳にたこができるほど聞いてきたと思うけど。


悲観的でしかなかったけど…、俺、お前を好きになれたこと、少しは誇りに思おうと思うんだ。



いつか、お前と生渕さんを、心の底から祝えるように。
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