あの加藤とあの課長*SS集
「言いませんでしたっけ…? 一目惚れしたって…。」

「聞いた。」

「じゃあ…?」

「なんで、一目惚れした?」



なんで……?



「そんなの…。」



“かっこよかった”から…。


私はふと、思った。

なんて、薄っぺらい想いなんだろう。私はこの人のことを何も知らない。

私はこの人の、何を見たの。


この人の、何を好きになったの。



「…外見だけで寄ってくる女ならごまんといる。そんな女と付き合うのに、いちいち理由なんて、いらないだろ。」



源さんの言う通りだと思った。


私はこの人の内面を見ていない。

私はこの人を好きになったんじゃない。私はこの人の、“入れ物”を気に入ったにすぎないんだ…。



「…そう、かも…しれません、ね…。」



そんなの、悲しすぎるけど。

でも…そんな源さんを変えることができるのは私じゃないと、分かるから…。



「…出ましょうか。」



空になった皿やグラスを前に、席を立った。


私は、今はただ…側にいられれば良い。
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