あの加藤とあの課長*SS集
お店の外に出て私がタクシーを捕まえている間も、私には目もくれず。



「加藤。」

「ん…。」

「寝るな。」



そんな会話を交わしているのが聞こえた。



「加藤さん、どうするんですか?」

「……。」

「きっと誰も、加藤さんの家、知りませんよ。」



そう言ってから、自分で墓穴を掘ってしまったことに気付いた。

返事がないところを見ると、源さんは何かを考えていて、加藤さんは眠ってしまっている。



「…俺が、連れて帰る。」



私も、行ったことのない、源さんの家。

涙が零れないように、唇をギュッと噛み締めてみたけど、どうやら無駄らしい。


せめてもの抵抗にと、振り向きはしなかった。


大丈夫、源さんは自分から振ることはないもん。だって、来る者拒まず去る者追わずだし。

いつの間にか唱えてるようになっていた言葉。


だけど、それは呆気なく打ち砕かれる。



「……増田。」

「…はい。」

「……別れてくれないか。」



生暖かい風が頬を撫でた。

風が目に染みたんだ、だから涙が、零れてしまったんだ。



「……。」



拳をグッと握り締める。

来る者拒まず、去る者追わず、じゃ、なかったの…?
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