あの加藤とあの課長*SS集
「…俺は、加藤が好きだ。」



あぁ…、やっぱり、火がついてしまったんだ…。

そしたら私にはもう…、勝ち目なんてこれっぽっちも、ないじゃない…。



「お前といるのは、今まで付き合ってきた女の中では、1番楽だった。」



居心地がよかったとか、もっと言い回しできないわけ?

悪態をつきそうになったけど、不器用な彼なりの、精一杯のフォロー。



「…すまない。」



幸せだったことには、代わりないもんなあ。



「加藤さん、課長に興味なさそうですよね。」



源さんから課長に呼び方を変えたことに素早く気付いた源さんは、きっと穏やかな顔をしている。



「あぁ…。」



その声音がもう、違うんだもん。

泣き顔を見られまいと振り返らずに、言葉を続けた。



「結構手強いと思いますよ、今彼氏いるみたいだし。」

「分かってる。」

「……頑張って、ください。」

「…サンキュ。」



涙を拭ってから振り返って、やっぱり少し後悔した。

だってあんなに穏やかな表情の源さん、初めて見たもん…。


あーあ…、完敗だ。


タクシーに乗り込んだ2人を見送りながら、また、涙を零した。

本当に、好きでした…、源さん。
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