あの加藤とあの課長*SS集
「陽萌、俺もコーヒー。」

「もう課長の分も淹れてますよ。」



給湯室のドアノブに手をかけたとき聞こえてきた会話に、その手を止めた。


加藤さんと、……源さん…?

あまりの声音の違いに、源さんだとすぐに確信を持なかった。



「課長、私がコーヒー飲めないの知ってますよね?」

「知ってる。」

「もう…。」



あの源さんが、こんな優しくて愛の籠った声を出すなんて。

にわかに信じられない。


加藤さんが課長呼びをしてるってことは、まだ…なのかな…?



「あっ、来週から社員旅行ですよね!」

「あぁ…。」

「楽しみー♪」

「……ふっ。」



え!?

思わず声を漏らしそうになって、両手で口を覆った。


笑っ……た? あの源さんが…?



「あ、馬鹿にしてます?」

「いや。……陽萌がいるなら、俺も少しは楽しみだ。」



これが、源さん…? なんだか別人みたい。


きっと、私が知らないだけなんだろうな…。そこに愛があったら、人はこんなにも変わる。

そういうことなんだと思う。



源さん。

もう好きじゃないと言ったら、それは真っ赤な嘘になります。


だから、私はあなたの幸せを願っています。
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