あの加藤とあの課長*SS集
陽萌が着替え終わったと呼びに来たので、再び屋上へと出た。



「あの、本当にありがとう。」



向かい合って座った俺に、改めて礼を言い頭を下げる陽萌。

別に、そんなの望んでないのに。



「お前、何か心当たりとかあらへんのか?」

「んんー…。ない…かなぁ。」



と首を傾げて苦笑する。

それはただ困っているだけのようにも見えなくはないけれど、きっと、それだけじゃない。



「…泣きたいんやったら、泣いてもええよ。」



その頭に手を乗せると、シットリと湿っていた。



「え、と…?」

「我慢することないやろ。」



そう言った途端、陽萌の目が潤み出す。

泣きたいのにそれを我慢して泣けないなんて、辛い。



「っ、ずるいっ…。」

「は?」

「う、くっ…。」



嗚咽を噛み殺しながら、ボロボロと涙を流す陽萌。


いつからとか分からないけど、ずっと耐え続けてきたんだろう。この、ちっこい体で。

震えるその肩に、そっと手を伸ばす。


そしてその肩を抱き寄せる。


嗚咽を噛み殺して泣く陽萌を、ギュッと強く抱き締めた。
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