あの加藤とあの課長*SS集
「あの、もう大丈夫だから…。」



俺の腕から逃れようと身を捩る陽萌を抱く腕に力を込める。



「あ、の…?」



その顔を見下ろせば、不安げに揺れる瞳と目が合う。

そういえばまだ名前を言っていなかったかもしれないと、唐突に思った。



「三富、恵也。」

「え…?」

「俺の名前。」

「あ、うん。」



見事な間抜け面の陽萌は、不思議そうに首を傾げた。



「え、と、三富先輩…?」

「ぶっ。今更先輩かよ。」

「え!? だって!」

「まぁ何でもいいけど。」



散々タメ口をきいておいて、何を今更と思ったけれど、それが彼女ならそれでいい。



「で、離してください。もう大丈夫なんで…。」

「ヤダって言ったら?」

「え、困りますよ普通に!」

「あそ…。」



仕方なく陽萌から離れると、空を見上げ、そのまま寝っ転がった。

風が心地良い。
風が髪を撫でて靡かせる。



「泣きたくなったら、いつでも言え。」

「あはは、何ですかそれ。」



ケラケラと笑いながら俺の隣に寝っ転がった陽萌。スカートじゃないとはいえ、無防備すぎる。
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