あの加藤とあの課長*SS集
「世の中は誰かを虐げて、無理矢理弱者と強者と、地位を確立したがる。」

「そうね。」

「まだ日本では君みたいなタイプには偏見が強いからね。大変だったね。」

「……ま、まぁね。」



かけられたことのない優しい言葉に、潤んでしまった瞳を隠すため、そっぽを向いた。

嬉しかった。



「いっそ海を渡ったらどうだい? アメリカなんかじゃ随分受け入れられてるはずだよ。」



そんな手があったのかとハッとしたのも束の間、現実を突きつけられた。


アタシにはお金がないんだった。

パスポート、飛行機、引っ越し……、馬鹿にならないお金がいる。



「……無理ね、お金がないもの。」

「そうか…。」



なんか、いい人じゃない。


この人、奥さんとかいないのかしら。いたら、こんな所で油売ってないわよね…。

というか、そっちの気は…ないのかしら。


少し、いいなーとか、思ってしまった。



その後は差し障りのない世間話をして別れた。

どこぞの誰とも知らぬ、素敵なおじ様との出会いだった。
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