あの加藤とあの課長*SS集
それから一月が経った。

気付けば風が冷たさを増して、世の中は冬支度を終えるような頃。


アタシはひたすら当たって砕けていた。



「もう就活なんてしない方が…。」



どこも全敗。
理由は他でもない、アタシのこの内面のせい。


隠したくない、このアタシらしさを。

そう思えるようになったのは、他でもない、あの人のおかげだと思う。



「……頑張るか。」



そう前向きになれるのも、あの人のおかげ。

感謝しなくちゃね。


そう思う一方で、あの人に会いたくてたまらない。そう疼く心を収めることができない。


コートのポケットに手を突っ込んで、いつもなら寄ってしまう飲み屋街を通り過ぎた。

大通りに出たとき、風に導かれるように、空を見上げた。


雨が降りそうなくらいどんよりと暗い空。


(一雨降ってもおかしくないわね…。)

洗濯物は室内に干して来たし、特に心配はないなと確認する。




「きゃぁぁぁぁあああ!!」



そんな空気を切り裂くように響いた悲鳴に、ハッと現実に引き戻された。

何事?


野次馬魂が騒いで、その悲鳴の元へと目を向けた。



「大丈夫ですか!」

「おばさん!!」



人だかりの真ん中、おばさんが倒れていた。

それを見た瞬間、何かを考えるよりも先に、体が動いた。
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