あの加藤とあの課長*SS集
人ごみを掻き分けておばさんの元に辿り着くと、膝をついて意識や呼吸を確認した。



「ちょっとアンタ、救急車!」



目の前に立っていたサラリーマンに指示を飛ばす。


意識も呼吸も、ない。
やることは、もう決まってんじゃない。


それから救急車が来るまで、どれだけの時間がかかったろうか。

アタシは無我夢中で心臓マッサージを繰り返していた。


皮肉なもんね、こんな風に、役立つなんて…。




救急車に乗り込んで、バトンタッチをして、やっとどこかに飛んでいた意識が帰ってきた。

アタシ、無我夢中で…。


自分の両手をそっと見た。




緊急治療室の前にボーッと立っていた。

アタシにもできること、あったじゃない。


バタバタと廊下を走る足音に、後ろを振り返って、呆然とした。



「君は、バーの…。」

「あ……。」



バーで飲み交わした、あの、おじ様…。

会いたくてたまらなくて、ずっと焦がれていたその人が今、目の前にいる。


アタシが本当の女だったら…、これはきっと運命の再会だなんて綺麗な言葉で飾れたのに。
< 91 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop