あの加藤とあの課長*SS集
「君が、妻を助けてくれたのか…?」

「つ、ま…?」



視線を下げて、これまで気付かなかったそれに気が付いて、目を見開いた。


左手薬指に光る…結婚指輪。

そういえばこの人、飲んでるときはいつも薄皮のグローブをしていた。



「ありがとう…。なんと礼を言っていいか…。」



この人、冷静な人だと思ってた。こんな風に取り乱したりもするのね…。

それは、奥さんのことだから…か。


アタシはよりにもよって、恋敵の命を救ってしまったのか。


救う命を選べたなら、せめて、こんな風に悲しくならない相手がよかった。

世の中、残酷なもんね。


その時手術中のランプが消えて、中から医師が出てきた。



「奥さんは無事ですよ。」



躊躇うことなくそう、おじ様に微笑みかけた。


よかった。

素直に、そう思った。



「彼の的確な処置のおかげですね。」



と言う。



「よかった…、よかった…!」



うわ言のように繰り返すおじ様を横目に、アタシは自分の靴の爪先を見つめていた。
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