あの加藤とあの課長*SS集
「ねぇアッキー。」



社長室に置かれたフカフカのソファに腰掛け、目の前のアッキーこと、本居 朗に声をかける。

この呼び名は本人の提案。



「なんだ? 敏。」



アタシは重役以外で、唯一この部屋に堂々と入れる社員。


迷惑なら止めようと思ったけど、行かないと逆にアッキーに心配される。

そんな自分の特別な立ち位置もわりと気に入ってる。



「世界って、広いのね。」

「なんだ急に。」

「…飲んだくれだったアタシの世界はちっぽけだった。」



笑うアッキーを横目にそう紡いだ。



「広い世界に引っ張り出してくれてありがとね、アッキー。」



そう微笑んでから、ソファから立ち上がって社長室を後にした。


入社してから1年とちょっとが経った。

今ではアイツも帰ってきて、アタシの毎日は驚くほど充実していた。



救護室に戻ると、アタシの席を占領する男が1人。



「アタシの席占領してんじゃないわよ。」

「空いてた。」

「ったく…。」



その側に置いてあった丸椅子に腰掛けて悪態をついた。



「ってかアンタ、女癖悪すぎなのよ。」

「は?」

「女をとっかえひっかえしすぎよ。専らの噂よ?」

「……ちっ。」
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