飛ばない蝶は、花束の中に


「……宇田川さん、来てくれる…から」



え?

だって、髭の彼は………
電車に乗る前に、別れたのに。




「…凱司さんが……あたしを連れて帰れって言ったなら…」

宇田川さんは…あたしがドアを入るまで、見るもの…。



「………また怒られちゃう」


全然、信じてくれないんですよ。

宇田川さんが信じてるのは、凱司さんだけなんです。

もし、凱司さんがあたしを刺すように言えば、あっさり刺すんだと、思うし。





緩んできた、手。

早かった息遣いは、徐々にゆっくりと大きく整えられて。

雅は首筋のネックレスをなぞりながら、ゆっくり、ゆっくりと。

そんな事を、しゃべった。




黒いアウディが駅のロータリーに、滑り込むのを確認した私は。

立てる?
と。

それしか、訊けなかった。




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