飛ばない蝶は、花束の中に


「…………失礼します」


難しい顔で飛び出してきては、座り込んだ雅の前に片膝を付いた彼は。

雅にも私にも何も訊かないままに、雅を抱き上げた。




「あ…歩けます、から」

「いいえ。歩かないでください」

「…………」


「深雪さんは助手席にどうぞ。雅さんは後ろです」



テキパキと、有無を言わさず指示を出す彼に、私も黙って言うことを聞いた。


絶対に逆らっちゃいけない、静かな気迫。




「失礼します」

2度目のそんな断りに、後部座席を振り返れば。


彼は。

至極真面目な面持ちで雅を支え、その薄いカットソーの背中に、手を入れていた。


器用に袖口から下着を抜き取った彼は、ポケットから出したハンカチで軽く包むと、雅の手に握らせて。

真新しい、蜂蜜レモンののど飴を、雅の口に、押し込んだ。



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