飛ばない蝶は、花束の中に


雅の言った通り。

彼は、駅からさほど遠くはない、お兄ちゃんの家には入ることなく。

敷地のギリギリの所に立っていた“タカノ”の前で車を停めた。




「…………まだ、無理です」

「………………はい」


雅を助け降ろしながら低く囁いた声に、雅はひどく消沈して答えたけれど、引き渡された“タカノ”の腕の中で。

深く、深く。
深呼吸を、した。



「では私は、戻ります。友典には私から連絡をいたします」


「…あの………」

「駄目です。します」

「……はぃ」



彼は、雅が何を言いたいのか、常に解っているのだと思う。

きっぱりと、冷たく言い切ると、小さくため息をついて。




「……また、寿命が縮まりました。このままでは明日にでも死んでしまいそうです」


と。

“タカノ”の胸に張り付いたままの雅の頭に手を置いて、微笑んだ。



< 172 / 328 >

この作品をシェア

pagetop