飛ばない蝶は、花束の中に


いい匂いだと、思った。


夏休みの間、泊めて欲しい。

その答えはまだ貰えてないけれど、水で手を流しながら、ちらりと見上げたお兄ちゃんは、相変わらず綺麗で、カッコ良くて。


左腕に入った薄墨色のタトゥーは、見たことがないから。

きっと私が引っ越してから入れたもの。


ピアスも、増えたかも知れない。


深雪、と呼ぶ声は。
前と、変わらない。




「お兄ちゃん」

「………」



嬉しい。

お兄ちゃんが、こんなに傍にいる。

私にタオルを渡してくれる。


嬉しい。
会いたくて、逢いたくて。

お兄ちゃんを抱き締めたくて。


お兄ちゃんに、抱き締めて貰いたくて。



私は濡れたタオルを持ったまま、もう1度、抱きついた。



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