飛ばない蝶は、花束の中に
“雅”は、静かに部屋から出てくると、私が居るのが当たり前のように私のお茶を入れ直したけれど。
特に会話を求めてきたりは、しなかった。
私も、ありがとうも言えなかったんだけれども。
「雅ちゃんただいま」
「おかえりなさい!」
ぱたぱた、っと、廊下を走った“雅”の足音は軽快で。
夕飯を作ってくれていると言うのに、どうにも挨拶ひとつ出来いまま、気まずい時間を耐えていた。
お兄ちゃんは、すぐ戻るから、って。
30分位前に出掛けてしまったし“雅”は意外と図太いのか、少し楽しそうですら、あった。
どこに行くの。
私、あの子と2人は気まずいよ、って。
ちょっとゴネてみたけれど。
お兄ちゃんは、あいつの何が気に入らない?と。
歳も近いんだし、なんとかならねぇもんか?
なんて。
ほんと、乙女心を何だと思ってるんだろう。
なんとかなるもんなら、なんとかしてる。
お兄ちゃんがひとこと、深雪の方が可愛い、とか、深雪の方が好きだとか。
言ってくれればいいのに!