飛ばない蝶は、花束の中に
「すみません…これ……ほどかせても?」
「…………雅、そこ引いたら締まるぞ」
「ええっ…」
弾かれたように手を離した雅が、前に立つ友典を押しのけ、ぼろぼろ零す涙もそのままに、お兄ちゃんに詰め寄った。
「ほどいてください!」
「何故?」
「……え」
「…え、じゃねぇよ。お前、せめて一晩くらい考えないでどうすんだ」
お兄ちゃんは、苦笑を押し隠す。
わざと、真面目な顔を作る。
多分、一泊もせずに帰りたがる事を見越して、スイーツを買ったくせに。
リビングのテーブルに、ちゃんと置いたくせに。
「…だって、……だって、ね」
戸惑ったように、詰め寄った形のままお兄ちゃんを見上げる表情は、幼い。
同じくらいの年齢の私から見ても、ひどく幼くて。
「……鷹野さんは…あたしを好きですもん……」
小さく呟いた言葉も。
頭を抱えたくなるほどに、幼い、と。
私は。
そう、思った。