飛ばない蝶は、花束の中に


「………だから」

ほどいてください、と。


見上げたまま、しゃくりあげた雅の唇が、への字に歪んでいて。




「どんな理屈だ」


くく、っと、隠しきれなくなった苦笑は、ため息に変わり。

お兄ちゃんは、ハサミ持って来い、解くのは無理だ、と。

雅を押し出した。



そばに立つ友典の肩に軽く触れ、手ぇ掛けさせたな、と労ったお兄ちゃんは。

“タカノ”と視線を合わせるように、しゃがみ込んだ。





「…………足りない、よな?」


「………も…充分」


“タカノ”の声は、やや掠れぎみに小さく。
苦しそうに息をつくと、私を見上げた。



「…………ごめん」

「………………」



私に?

キスのこと?


こんな、哀れな状況で謝られたら…………いつまでも…ねぇ。




正直、なんとなく。

あれはもう、変な店に紛れ込んだ、運の悪さと言うか…。



うん。
事故よ事故。

……あの後、お兄ちゃんにしたキスに比べたら。


…………ねぇ。





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