飛ばない蝶は、花束の中に


“タカノ”は。
怖かったんだろうか。

雅が、居なくなって。

お兄ちゃんに、連れられて。




お兄ちゃんは。
雅がすぐに帰りたがる事を見越したけど。

“タカノ”には、判らなかったんじゃない?



きっと。
きっと。

お兄ちゃんに、捕られた、と。

お兄ちゃんに“戻って行った”と…。


感じたんじゃ、ないかしら。





「ねぇお兄ちゃん…あの2人…うまく行くの?」


髭の彼は、黙ったまま静かにコーヒーサーバーのスイッチを入れる。

コーヒーサーバーの隣には、挽いた豆。
梨地の缶に、雅の字で“ひいた豆”と、ある。

モスグリーンの、ごく細い糸で刺繍の入った布の袋に、紙のフィルター。

迷うことなく、それらを元の位置に戻した髭の彼は。




「一樹さん次第です」

と。


淡々と、呟いた。





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