飛ばない蝶は、花束の中に
「お腹すいてますか?」
夕飯要らないって電話貰ってから、結構経つけれど…
と。
お兄ちゃんの靴下を持ったまま首を傾げた“雅”に、話し掛けられて、我に返った。
「………いつも?」
いつも、靴下とか…脱がすの?
「いつも砂だらけじゃあ…ないですから」
可笑しそうに含み笑う“雅”が、別人に見えた。
「良かった。凱司さん、いつもあたしに気を使って、一緒にいてくれるから……」
ストレス溜まってるんじゃないかって、心配だったの。
“雅”は、お兄ちゃんの消えたドアを見やると、ありがとう、と、小さく息をついた。
まるで、お兄ちゃんが自分のであるかのように。
まるで、ひとり置いて行かれた事など、何でもないかのように。