飛ばない蝶は、花束の中に
「ああ、おかえりー」
おなかはすいていない。
すいたとも、すいていないとも答えることなくリビングに入れば。
“タカノ”はソファで、煙草に火をつけるところだった。
「楽しかった?」
「………」
思わず俯いてしまったのは、どうしてだろう。
“タカノ”の髪が濡れたままだったせいかも知れないし、その指が、綺麗だったせいかも知れない。
綺麗だと、思ってしまったことに何故だか、強い焦りを感じたせいかも、知れない。
「焼けちゃってるね」
“雅”は、くるくると動き回り、その肩口までの髪を揺らす。
今日はひとりで、何をしていたのだろう?
“タカノ”が戻るまで、出して貰えない家の中で。
“タカノ”が、私を手招いた。