暗黒の頂の向こうへ
第六章 望と代償
ある平穏な日曜日。 混み合う渋谷駅のスクランブル交差点を、走り抜ける男がいる。 光学迷彩のマントを纏い、いとも簡単に人々の間をすり抜け、存在を消しながら何者かの追跡を振り切るように、ひた走る。 息を殺して、全神経を後方の追っ手に集中させながら、懸命に目的地に向かう。 一人、二人、いや三人の追っ手がいる。 このままでは、仲間の所へ行く事ができない。
その男は、地下鉄の入り口に飛び込んだ。 そして改札を潜り抜け、出口に群がる人々の波を乗り越える。 駅のホームを矢のように走り、線路に飛び込んだ。 そして電車とは逆方向へと逃げてゆく。 追っ手の追跡は厳しく、そう簡単には振り切れない。
ダイブ装置のスイッチを入れ、線路上を音速を超える勢いで移動するが、それでも振り切れない。 しだいに呼吸と鼓動が荒くなる! 時空空間へと連続でダイブアウトを繰り返し、東京23区内に張り巡らせた地下鉄を網羅する程、命がけの逃走を図った。 右へ左へと蛇行している暗い地下鉄を、まるで時空空間のように飛ばし逃げ回る。
追っ手の事を気にせず、ただただ無我夢中であった。
どれくらいの時間が経っただろう……。 振り返ると、追っ手の気配は無くなっていた。 男は気を緩め、光学迷彩を解き、ホームに降り立った。
深呼吸をして平静を装い、人ごみに紛れ目的地にゆっくりと歩き出す。 すると悲鳴が聞こえる。 若い女性と男性二人が、口論をしながらもみ合っている。 近くにいた老夫婦が間に入り、仲裁をするが全く収まらない。 興奮する男性が、煩わしく老夫婦を力強く払い除けた。 すると、お婆さんをかばい、お爺さんが線路へと落ちてしまった。 近くにいた人達に緊張が走る。 男性が急いでお爺さんを引き上げようとするが、焦ってしまい引き上げれない。 助けを求めるが時間がない。 みるみるうちに電車が迫ってくる。
車輪がレールを削り、背筋が凍るような音が悲鳴と共に響き渡る。
目的地に急ぐ男は凝視しているが、行動する事はできない。
人々は目を覆い、叫び声を上げる。 もう完全に間に合わない。 お婆さんはどうする事もできず、呆然と見つめている。
「誰か、誰か、助けて……」
男は拳を強く握り我慢していたが、自分の母親と同じ年代のお婆さんを見ると、無視できなかった。
考えるよりも先に、体が動いてしまう。 ダイブ装置のスイッチを入れ、目にも止まらぬ速さでお爺さんの肩に手をかけるが、電車が押し出す風圧が迫る。
「キャー……」
甲高いブレーキ音を残し、電車は通り過ぎて行く。 お婆さんは目をつぶり、覚悟した。
「お爺さん、あんまり無理したらだめだよ。 命を大切にしてね」
「あ……。 ありがとう……」
お爺さんは、びっくりした様に、声をだした。
その光景を見ていた人々は困惑し、その男を不思議そうに眺めている。
満足した男は再び光学迷彩を施し、人混みの中へと足早に消えて行った。
暫くして、騒ぎを嗅ぎつけた時空警察が現れた。
そして、逃走していた男の足跡を光学スコープで探る。 一人の時空警察官が、男の磁気反応を見逃さなかった。 それは、電車の先頭車両にダイブマントを擦った痕跡であった。 逃走した男は、最大のミスを犯してしまった。 無我夢中でお爺さんを助ける為に、ダイブアウトした強い磁気反応を現場に残し、逃走したのである。 磁気反応を残した事は、時空レーダーに捕まり、逃走経路を確実に割り出されてしまう事であった。
直ちに時空警察官は本部に連絡を入れ、男の磁気反応を追って追跡した。
テログループXYZの秘密会合が、東京と大阪を繋ぐリニアモーターカーの車内でおこなわれていた。
テログループリーダーZが、希望の世界、新しい時代をつかむために語った。
「準備は整った。 我々は、長崎に向かうB29を奪取し、沖縄沖に停泊しているアメリカ艦隊に原爆を投下する。 そして歴史を書き替える。 これで、未来に希望の光を与えられるかは分からない。
だが、一つの引き金にはなるだろう。
この作戦の成功は、日本人の義務であり、誇りとなる。
歴史も俺たちの歩んだ道を、照らしてくれるだろう。
同士、犠牲よりも地球の未来だ。 俺たち日本人の力を見せよう」
テログループ一同が喚起の声あげる。 「おー……」
リーダーZの考えは絶対であった。 誰もが日本人の誇りを取り戻し、未来を変える事に、使命を感じていた。
追跡監視役の部下が報告する。
「リーダー……。 時空レーダーに、歪みがでています。 追跡探知されたようです!」
テログループのダイブマントは、時空警察より劣り、ダイブアウト時に磁気反応を消せず、追尾される危険性があった。
「落ち着け、地上2メートルで、時速800kmで走るこの車両に、時空移動船は近づけない。 正確な座標が判らず、ダイバーも容易には、時空ダイブできないはずだ。 それより追跡探知された奴は誰だ」
「磁気反応がまだ残っているのは、Wです」
Wはお爺さんを助ける時に磁気反応を残し、時空警察のレーダーに探知されていた。
メンバー1人が追尾探知されれば、全員が探知照合される危険性があった。
「仲間に連絡して、Wの先祖を始末しろ」
「わかりました。 直ちに」
リーダーZがWの手を握り、優しく話しかける。
「同士、残念だがここまでだ。 ルールに則り、外れてもらう」
Wは覚悟していた。 探知された事が死だと。 そして鉄の掟の事も。
その男は、地下鉄の入り口に飛び込んだ。 そして改札を潜り抜け、出口に群がる人々の波を乗り越える。 駅のホームを矢のように走り、線路に飛び込んだ。 そして電車とは逆方向へと逃げてゆく。 追っ手の追跡は厳しく、そう簡単には振り切れない。
ダイブ装置のスイッチを入れ、線路上を音速を超える勢いで移動するが、それでも振り切れない。 しだいに呼吸と鼓動が荒くなる! 時空空間へと連続でダイブアウトを繰り返し、東京23区内に張り巡らせた地下鉄を網羅する程、命がけの逃走を図った。 右へ左へと蛇行している暗い地下鉄を、まるで時空空間のように飛ばし逃げ回る。
追っ手の事を気にせず、ただただ無我夢中であった。
どれくらいの時間が経っただろう……。 振り返ると、追っ手の気配は無くなっていた。 男は気を緩め、光学迷彩を解き、ホームに降り立った。
深呼吸をして平静を装い、人ごみに紛れ目的地にゆっくりと歩き出す。 すると悲鳴が聞こえる。 若い女性と男性二人が、口論をしながらもみ合っている。 近くにいた老夫婦が間に入り、仲裁をするが全く収まらない。 興奮する男性が、煩わしく老夫婦を力強く払い除けた。 すると、お婆さんをかばい、お爺さんが線路へと落ちてしまった。 近くにいた人達に緊張が走る。 男性が急いでお爺さんを引き上げようとするが、焦ってしまい引き上げれない。 助けを求めるが時間がない。 みるみるうちに電車が迫ってくる。
車輪がレールを削り、背筋が凍るような音が悲鳴と共に響き渡る。
目的地に急ぐ男は凝視しているが、行動する事はできない。
人々は目を覆い、叫び声を上げる。 もう完全に間に合わない。 お婆さんはどうする事もできず、呆然と見つめている。
「誰か、誰か、助けて……」
男は拳を強く握り我慢していたが、自分の母親と同じ年代のお婆さんを見ると、無視できなかった。
考えるよりも先に、体が動いてしまう。 ダイブ装置のスイッチを入れ、目にも止まらぬ速さでお爺さんの肩に手をかけるが、電車が押し出す風圧が迫る。
「キャー……」
甲高いブレーキ音を残し、電車は通り過ぎて行く。 お婆さんは目をつぶり、覚悟した。
「お爺さん、あんまり無理したらだめだよ。 命を大切にしてね」
「あ……。 ありがとう……」
お爺さんは、びっくりした様に、声をだした。
その光景を見ていた人々は困惑し、その男を不思議そうに眺めている。
満足した男は再び光学迷彩を施し、人混みの中へと足早に消えて行った。
暫くして、騒ぎを嗅ぎつけた時空警察が現れた。
そして、逃走していた男の足跡を光学スコープで探る。 一人の時空警察官が、男の磁気反応を見逃さなかった。 それは、電車の先頭車両にダイブマントを擦った痕跡であった。 逃走した男は、最大のミスを犯してしまった。 無我夢中でお爺さんを助ける為に、ダイブアウトした強い磁気反応を現場に残し、逃走したのである。 磁気反応を残した事は、時空レーダーに捕まり、逃走経路を確実に割り出されてしまう事であった。
直ちに時空警察官は本部に連絡を入れ、男の磁気反応を追って追跡した。
テログループXYZの秘密会合が、東京と大阪を繋ぐリニアモーターカーの車内でおこなわれていた。
テログループリーダーZが、希望の世界、新しい時代をつかむために語った。
「準備は整った。 我々は、長崎に向かうB29を奪取し、沖縄沖に停泊しているアメリカ艦隊に原爆を投下する。 そして歴史を書き替える。 これで、未来に希望の光を与えられるかは分からない。
だが、一つの引き金にはなるだろう。
この作戦の成功は、日本人の義務であり、誇りとなる。
歴史も俺たちの歩んだ道を、照らしてくれるだろう。
同士、犠牲よりも地球の未来だ。 俺たち日本人の力を見せよう」
テログループ一同が喚起の声あげる。 「おー……」
リーダーZの考えは絶対であった。 誰もが日本人の誇りを取り戻し、未来を変える事に、使命を感じていた。
追跡監視役の部下が報告する。
「リーダー……。 時空レーダーに、歪みがでています。 追跡探知されたようです!」
テログループのダイブマントは、時空警察より劣り、ダイブアウト時に磁気反応を消せず、追尾される危険性があった。
「落ち着け、地上2メートルで、時速800kmで走るこの車両に、時空移動船は近づけない。 正確な座標が判らず、ダイバーも容易には、時空ダイブできないはずだ。 それより追跡探知された奴は誰だ」
「磁気反応がまだ残っているのは、Wです」
Wはお爺さんを助ける時に磁気反応を残し、時空警察のレーダーに探知されていた。
メンバー1人が追尾探知されれば、全員が探知照合される危険性があった。
「仲間に連絡して、Wの先祖を始末しろ」
「わかりました。 直ちに」
リーダーZがWの手を握り、優しく話しかける。
「同士、残念だがここまでだ。 ルールに則り、外れてもらう」
Wは覚悟していた。 探知された事が死だと。 そして鉄の掟の事も。