暗黒の頂の向こうへ
第三章 人類の罪
第4チームがスクランブル待機していた時、再び緊急警報が鳴り響く。 「こちら管制塔、西暦1991年11月3日の、旧日本列島付近、
緯度153度59分、軽度24度16分地点に、複数のダイブアウトによる磁気反応を確認。 第4チーム緊急出動 調査 追跡せよ」
「了解。 ノア 出動します」
時空移動船は、放射能が渦巻く空へと消えて行った。
 「こちらマリア・ヘンデル中尉。 西暦1991年11月3日にダイブアウト。 太平洋上空を飛行中。 時空レーダーに、複数のダイブアウトポイントと、侵入ポイントを確認。 10秒後に、時空に再突入します。ダイブ準備」
 守は、船体後部のダイブドアのスイッチを押した。
ゆっくりと開くドアの向こうには、激しい流れが渦を巻き、磁場を発しながら流れている。
 守と隆一は、無事を祈るように拳を合わせ、暗黒の世界にダイブしていった。 二人は高速で、闇の世界を飛行する。
「こちら守。 ダイブアウトポイント確認。 急行する」
前方に光が見える。 侵入者がダイブアウトして出来た扉が開いている。 後を追うように二人は扉を抜け、時空空間を飛び出した。 そこは、日本列島付近。 輝く夜空を飛行し、侵入者の磁気反応を確認する。
 「こちらマリア。 西暦1972年4月28日緯度34度40分、軽度135度30分地点に、新たなダイブアウトとポイント確認」
 
 ダイブスーツでの時空侵入は、半重力装置で音速の2倍の速度まで加速し、電子銃で空間をこじ開け、侵入する。 そのタイミングが少しでもずれると、時空ブラックホールに落ちてしまう危険性があった。
「守。 やつら様々な時代に連続ダイブアウトを繰り返し、俺たちの検索をかく乱している。 追跡が難しい……」
 「なるほど。 そうゆう作戦か」

不法侵入者のダイブマントは性能が劣っているために、追跡を振り切る手段として様々な時代に侵入を繰り返し、命がけの逃走を図っていた。 

「マリア、こちら守。 再びダイブアウトポイントの痕跡を複数確認。 磁気残像探知機で、侵入者を追跡する」
 「守。 侵入者が何度もダイブアウトを繰り返したために、やはり時代検索が間に合わない。 危険だから注意しよう。 何か意図があるかもしれない。 罠かもしれない」
 凄腕の隆一も、侵入した時代がいつなのか分からず、一抹の不安を感じていた。 そしてこれ程までに時代を行き来する連続ダイブは、初めての経験であり、テログループも時空警察も一歩間違えば命を落としかねないダイブの連続であった。
守と隆一は合流し、不法侵入者を補足する。 
「マリア、俺たち二人はダイブアウトポイント、8000メートル上空から急降下し、超低空で調査開始する」 
二人は気付かれないように、慎重に近づいて行く。 すると、守にとって以前写真で見たような、何か懐かしい光景が広がっていた。
 「何だあれは? 厳島神社か、ここは広島か……。 隆一、やはりここは、旧日本領土内の広島だ。 1km先の小学校に、侵入者のダイブアウトした痕跡発見。 着地して捜査開始する」
守と隆一はステルス光学迷彩のスイッチを入れ、大勢の子供たちが遊ぶ小学校の校庭に降り立った。
子供達の笑い声が聞こえる。
「守。 皆楽しそうだなー。 子供たちが元気に遊んでいる。 あれは、野球って遊びか?」 
「そうだよ、ベースボールってやつだ」
 世界統一国家テラでは、日本人は差別をうける少数民族であった。 大勢の日本人、そして楽しく遊ぶ子供達の中を歩く体験に、守は胸が熱くなるような気持ちを感じていた。
隆一にとっても、これ程の喜ぶ子供達を見るのは、初めてであった。 「こっちでは縄跳びか、ここには日本人がいっぱいいる。 楽しくなる……」 一瞬追跡を忘れ、目の前の光景に夢中になった。
守の心には、広島はいつかダイブして行ってみたい世界。 先祖の故郷であるという強い思いがあったが、戦争の歴史に違和感を感じ、行くに行けない歯がゆい気持ちを思い出していた。
その思いをしまい込むように、守が口を開く。
「当たり前だろ、この時代は日本国が存在してるんだ。  神村家は広島出身だから、何故か懐かしい気がする」
「守、見ろ。 そこの可愛い女の子は、おまえの親戚かもしれないぞ?」 守の気持ちを知っている隆一が、憎らしく冷やかしをいれた。
 隆一の言葉には、わざと反応しない。
「レーダーに反応がある。 侵入者だ。 ダイブアウトの磁気探知データーと照合確認。 今日も早めに片づきそうだ。 ん……。 何だ? 何かおかしい……。 侵入者が逃げないぞ」
不気味な謎の男が、少女を抱えて立っている。
男は素性を隠すため、数百種類の顔を表示する光学マスクをかぶり、真黒いダイブマントに身を包んでいた。
そして光学迷彩除去ゴーグルで、時空警察の二人の歩みを見据えている。
「隆一。 マリアに状況の報告を。 間抜けな奴だ。 検挙されれば過去に遡り、犯罪者全員が拘束されるというのに」
「こちら隆一。 マリア。 俺のコンピューターでは時代検索が追い着かない。 検索を頼む」
「こちらマリア。 了解」
守が電子銃をかまえ、謎の男に警告する。
「時空警察だ。 おまえを逮捕する。 無駄な抵抗はやめて、少女をこちらに渡せ」
謎の男は、電子銃を突きつけられているとゆうのに、何故だか微動だにしない。
 「ふふふ……。 暗黒の世界にようこそ。 馬鹿な時空警察に、最高のショータイムを用意した。 お勉強のお時間だ」
謎の男は死をも恐れず、決意していた。 これから起こる衝撃の事実を知りながら!
 「何だと……?」
電子銃を突きつけて優位でいる二人が、何故か男の言葉に動揺を感じていた。
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