暗黒の頂の向こうへ
謎の男は秒針の動きと、流れる大気にリンクしているように、時を感じ語りだした。
「渡すよ30秒後に、歴史を感じ取れない政府の犬め」
子供たちの笑い声と、笑顔があふれる小学校の校庭で、野球のボールが飛び交い、縄跳びで遊ぶ少女が飛び跳ねる状況の中、謎の男の鋭い殺気と、守と隆一の得体の知れない不安が交錯した。
二人はダイブスーツの光学迷彩を解いて、抱えられた少女に話しかける。 「大丈夫かい、お嬢ちゃん。 我々は警察だ。 今助けてあげるからね」
その瞬間。 ダイブスーツから、けたたましく警告音が鳴りだした。
守は強烈な殺気を感じながら、空を見上げた。
「しまった。 まさか? この時代は!」
「守、デッドサインが出ている!」
隆一の体に電流が流れたように、顔が一瞬で硬直した。
「逃げて。 そこは戦争中の広島市内よ。 原爆投下地点から、1㎞以内。 あと10数秒後に原爆の爆発時刻。 退避して。 危ない!」 マリアは、二人のいる地点にアクセルを全開にする。
「守。 少女の救助は無理だ。 時空移動バリアで、10分後に移動するしかない……」 隆一は一刻を争う状況の中、謎の男の存在を忘れ、周りで楽しく遊ぶ子供たちに視線を移した。
「ほら、渡すよ。 可愛い少女だ。 時空警察なら助けてみろ」
危機的状況の中、謎の男は守に向かって少女を荒々しく投げつけた。
その瞬間、太陽の中にいるような閃光が走り、強烈な熱風が渦を巻いた。 衝撃の轟音すら聞き取る事が出来ない狂気の世界。
到底生身の体では、有り余るパワーに苦痛すら体感できない。
瞬間爆発温度5000度。 太陽の表面温度に匹敵する、想像もできない凄まじい炎が吹き荒れる。
広島の悪魔の歴史、B29爆撃機エノラ・ゲイが原爆を投下し、爆発した瞬間であった!!!
この時点から人間では制御しきれない世界、人類の核の歴史がスタートした悲しき瞬間であった。
「守。 急げ。 時間がない。 時空移動バリアで10分後にスローワープし、衝撃をかわすんだ」
「女の子が、女の子が……」
「守。 スイッチを押せ。 早く」 隆一は血相を変えて守に飛びつき、緊急バリアのスイッチを押して体制を低くする。
「お……。 俺の……。 腕の中の……。 女の子が! 溶けていく。 ウオォー……!」
あまりの衝撃に、音も聞こえない。 しかし時間は時空バリアのせいで、無常にもゆっくりと流れて行く。 少女は苦しみ悶え、衣服は焼け落ち、白く美しい柔肌は赤身に染まる。 体内の脂分が皮膚を焦がす。 真っ黒く爛れた皮膚は蒸発し、内臓が煮えたぎる……。
その姿形は、幼い少女でも人でもなく、ただただ死臭を巻き上げる肉の固まりであった。 小さく温もりのあった少女は、暗黒のキノコ雲にチリとなって舞い上がり、守の腕の中から跡形もなくすり抜けていった。
無邪気に遊んでいた小学校の校庭を見渡せど、笑い声も人影も無い。 子供とも人間とも区別がつかない躯が、火炎流に巻かれ漆黒の闇に消えてゆく。
体の中の血液が逆流するかのように、押さえようもない怒りが全身から突き上げてくる。
「くそー……。 これが核……。 大勢の人間が、一瞬で灰になり死んだのか……。 これが人間のやる事か! さっきまであった人生が、すべての物が消えてしまう……。
こんな事が、こんな歴史があっていいのか……」
力強く握った拳を、震わせながら突き上げる。 黒々と立ち昇る雲を見上げ、人間の愚かさへの怒りを押さえられなかった。
「守、大丈夫か?」 心配して声をかけるが、隆一も原爆の体験で放心状態であった。
まさに地球上の地獄。 人間はおろか建物草木が、一瞬で無くなり、すべてを焼き尽くす無間地獄であった。
この原爆で14万人が死亡し、68年後の世界でも、未だに遺族が分からない816名の遺骨がある。
二人は子供の頃学んだ、悪魔の歴史を実体験したのであった。
ようやくマリアの操る時空移動船が、変わり果てた世界に到着した。
「本部へ。 こちらマリア・ヘンデル中尉。 侵入者は原爆の衝撃によりロスト。 高濃度の放射能により経路探索は不可能。 ダイバー二人を回収し、ただちに帰投します」
守と隆一は言葉を失うほど、原爆の衝撃をひきずり、少女の最後の姿を脳裏に刻み帰投した。
時空警察本部内での状況報告会議
捜査官報告。
「現在、時空不法侵入が多発しています。 中でも日本人テログループXYZは、審判の日以前の時代に進入し、さまざまな時空に連続ダイブしています。 そして進入の痕跡を消し、時空警察の追跡を逃れています。 痕跡を発見されると、検挙前に自爆。 もしくはブラックホールに自らダイブし、存在を絶ちます。
日本人は追い込まれると、何をするか判らない民族です。
太平洋戦争ではゼロ戦で特攻攻撃し、無意味な行動で墓穴を掘りました。 犬猫のように自らの命を惜しまない、野蛮な民族です。
我々アメリカ人、そしてヨーロッパ出身の人間には理解不能な人間です。
今後、日本人テログループの監視を強化し、排除致します」
人類滅亡の審判の日から生き残った人々、そして歴史学者は、こぞって広島長崎の原爆の歴史を振り返り、核に対する人類の分岐点、問題点は日本人の行動力のなさ、未来予想の欠如、そして日本人だけが核を体験した事が、世界人類の悲劇と認識されていた。
この事実が、日本人の差別を招いて迫害されていた。
「渡すよ30秒後に、歴史を感じ取れない政府の犬め」
子供たちの笑い声と、笑顔があふれる小学校の校庭で、野球のボールが飛び交い、縄跳びで遊ぶ少女が飛び跳ねる状況の中、謎の男の鋭い殺気と、守と隆一の得体の知れない不安が交錯した。
二人はダイブスーツの光学迷彩を解いて、抱えられた少女に話しかける。 「大丈夫かい、お嬢ちゃん。 我々は警察だ。 今助けてあげるからね」
その瞬間。 ダイブスーツから、けたたましく警告音が鳴りだした。
守は強烈な殺気を感じながら、空を見上げた。
「しまった。 まさか? この時代は!」
「守、デッドサインが出ている!」
隆一の体に電流が流れたように、顔が一瞬で硬直した。
「逃げて。 そこは戦争中の広島市内よ。 原爆投下地点から、1㎞以内。 あと10数秒後に原爆の爆発時刻。 退避して。 危ない!」 マリアは、二人のいる地点にアクセルを全開にする。
「守。 少女の救助は無理だ。 時空移動バリアで、10分後に移動するしかない……」 隆一は一刻を争う状況の中、謎の男の存在を忘れ、周りで楽しく遊ぶ子供たちに視線を移した。
「ほら、渡すよ。 可愛い少女だ。 時空警察なら助けてみろ」
危機的状況の中、謎の男は守に向かって少女を荒々しく投げつけた。
その瞬間、太陽の中にいるような閃光が走り、強烈な熱風が渦を巻いた。 衝撃の轟音すら聞き取る事が出来ない狂気の世界。
到底生身の体では、有り余るパワーに苦痛すら体感できない。
瞬間爆発温度5000度。 太陽の表面温度に匹敵する、想像もできない凄まじい炎が吹き荒れる。
広島の悪魔の歴史、B29爆撃機エノラ・ゲイが原爆を投下し、爆発した瞬間であった!!!
この時点から人間では制御しきれない世界、人類の核の歴史がスタートした悲しき瞬間であった。
「守。 急げ。 時間がない。 時空移動バリアで10分後にスローワープし、衝撃をかわすんだ」
「女の子が、女の子が……」
「守。 スイッチを押せ。 早く」 隆一は血相を変えて守に飛びつき、緊急バリアのスイッチを押して体制を低くする。
「お……。 俺の……。 腕の中の……。 女の子が! 溶けていく。 ウオォー……!」
あまりの衝撃に、音も聞こえない。 しかし時間は時空バリアのせいで、無常にもゆっくりと流れて行く。 少女は苦しみ悶え、衣服は焼け落ち、白く美しい柔肌は赤身に染まる。 体内の脂分が皮膚を焦がす。 真っ黒く爛れた皮膚は蒸発し、内臓が煮えたぎる……。
その姿形は、幼い少女でも人でもなく、ただただ死臭を巻き上げる肉の固まりであった。 小さく温もりのあった少女は、暗黒のキノコ雲にチリとなって舞い上がり、守の腕の中から跡形もなくすり抜けていった。
無邪気に遊んでいた小学校の校庭を見渡せど、笑い声も人影も無い。 子供とも人間とも区別がつかない躯が、火炎流に巻かれ漆黒の闇に消えてゆく。
体の中の血液が逆流するかのように、押さえようもない怒りが全身から突き上げてくる。
「くそー……。 これが核……。 大勢の人間が、一瞬で灰になり死んだのか……。 これが人間のやる事か! さっきまであった人生が、すべての物が消えてしまう……。
こんな事が、こんな歴史があっていいのか……」
力強く握った拳を、震わせながら突き上げる。 黒々と立ち昇る雲を見上げ、人間の愚かさへの怒りを押さえられなかった。
「守、大丈夫か?」 心配して声をかけるが、隆一も原爆の体験で放心状態であった。
まさに地球上の地獄。 人間はおろか建物草木が、一瞬で無くなり、すべてを焼き尽くす無間地獄であった。
この原爆で14万人が死亡し、68年後の世界でも、未だに遺族が分からない816名の遺骨がある。
二人は子供の頃学んだ、悪魔の歴史を実体験したのであった。
ようやくマリアの操る時空移動船が、変わり果てた世界に到着した。
「本部へ。 こちらマリア・ヘンデル中尉。 侵入者は原爆の衝撃によりロスト。 高濃度の放射能により経路探索は不可能。 ダイバー二人を回収し、ただちに帰投します」
守と隆一は言葉を失うほど、原爆の衝撃をひきずり、少女の最後の姿を脳裏に刻み帰投した。
時空警察本部内での状況報告会議
捜査官報告。
「現在、時空不法侵入が多発しています。 中でも日本人テログループXYZは、審判の日以前の時代に進入し、さまざまな時空に連続ダイブしています。 そして進入の痕跡を消し、時空警察の追跡を逃れています。 痕跡を発見されると、検挙前に自爆。 もしくはブラックホールに自らダイブし、存在を絶ちます。
日本人は追い込まれると、何をするか判らない民族です。
太平洋戦争ではゼロ戦で特攻攻撃し、無意味な行動で墓穴を掘りました。 犬猫のように自らの命を惜しまない、野蛮な民族です。
我々アメリカ人、そしてヨーロッパ出身の人間には理解不能な人間です。
今後、日本人テログループの監視を強化し、排除致します」
人類滅亡の審判の日から生き残った人々、そして歴史学者は、こぞって広島長崎の原爆の歴史を振り返り、核に対する人類の分岐点、問題点は日本人の行動力のなさ、未来予想の欠如、そして日本人だけが核を体験した事が、世界人類の悲劇と認識されていた。
この事実が、日本人の差別を招いて迫害されていた。