君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「あの人、変わった経歴でさ、もと人事部なんだよな」
「知りませんでした」
「同じクラスの人たちと比べて、年齢もいってるだろ」
くるくるしているうちに、昇進が遅れたのだという。
「一次面接官が課長だったんだ、当時は人事グループ長で」
「配属されたら、その人が上司だったと」
そう、とうなずく。
「まあ俺は最初、企画に配属されたから、課長の下に入ったのは三年目のときだな」
それも知らなかった。
「課長って、昔からあんなですか?」
「昔からあんなだ」
一緒に笑う。
こんな時間、いつぶりだろう。
「新庄さんの、当時は?」
「さあなあ」
生意気だったんじゃないか? と灰皿に煙草を押しつけながら微笑む。
やっぱり陽気だ。
お酒のせいなのか、それとも最後だからか。
この人にも、そういう感傷があったりするんだろうか。
静かな、ささやかなスペースで新庄さんの昔の話を聞く。
幸せで、どうかなりそうだ。
だけど同じくらい苦しい。
こんな時間は、たぶんもう、これっきり。
突然のれんが跳ね上がり、人がなだれ込んできた。
思わず飛びのくと、新庄さんがかばうように身体を入れ替えて、私を奥にやってくれる。
狭さのせいでほんの一瞬、抱きしめられるような格好になった。