君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
会社の飲み会だろう、すっかりつぶれた男の人を真ん中に、両脇をそれぞれ別の人が支えている。

「おい、しっかり歩けよ」「ここ洗面所じゃねーぞ」と声をかけるけれど、当人はまったく歩ける状態ではない。


すみません、すみません、と謝りながら彼らはその人を引きずって去っていった。

一瞬の騒動だった。



「大変だなあ」



はは、と笑って新庄さんが新しい煙草に火をつける。

私の目の前で、紙の筒がちりっと音をたてて燃える。



「これ吸ったら、行くか」



ふっと煙を吐いて、私の頭越しに、電話機の横のグラスに手を伸ばす。

ノータイの襟元から喉が覗く。


上着の袖が頬をかすめても、私はよけなかった。

返事がないのを不思議に思ったのか、グラスを煽りながら、新庄さんがこちらを見る。

私も、見返す。


たぶん私は今みっともないくらい、もの欲しそうな顔をしている。


かまわなかった。

欲しいものを欲しがって、なにが悪い。


狭い空間の中で、私と視線を合わせていた新庄さんは、途中でなにかに気がついたように、少し目を見開いた。

グラスから口を離す。


その隙に、私たちはどちらからともなく、キスをした。



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