君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「冷たい」と捨て台詞を残して去っていた彼女たちに、激しく共感する。

けれど私はなぜか、今までになくすっきりした気分になっていた。


やらぬ悔いよりやった悔いって、こういうことだ。

26年生きてきて、初めて実感する。


もういいや。

できることはしたし、仕事は毎日忙しくて、目が回るくらい楽しい。

結局、暮らしの90パーセントは仕事で、残りの部分で恋しようが失恋しようが、あんまり日常に影響って、ない。


さいわい予想通り、社内で顔を合わせることは皆無だ。

このまま私の中でも「なかったこと」になっていくんじゃないかとさえ思えた。


さすがにそれは、甘かった。




もうすぐ日付も変わろうとする頃、心地よい疲れと共に会社を後にした。

明日は朝一で、本間さんとミーティングがある。

すっきり目覚めるために栄養ドリンクを買おうとコンビニに立ち寄った。


いつも通り、店の前で開けて飲みながら、路地を入ったところにあるパーキングに、つい目を向けてしまい、後悔した。

目に飛び込んでくる、ストイックな佇まいの黒い車。

初めて見たときと同じように、独特の空気をまとって鎮座している。


以前新庄さんは、その時々で空いているコインパーキングに入れるのだと言っていた。

だから、いつもここを使っているわけではないはずだ。


たまたまここに停めた日に、たまたま私がこのコンビニに寄った。

あの日と同じように。

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