君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
神様あたりが嫌がらせでもしているんだろうか。

ここでドリンク買うの、やめようかなというくだらない思いさえ浮かぶ。


ふと駐車場の暗がりに人影を見た気がして、目を凝らした。

新庄さんではない。

それは遠くからでもすぐわかる。


隣の車のドライバー?

そういう様子でもない気がする。


自然と足は駐車場に向いていた。

音をたてないよう、新庄さんの車にそっと近づく。


女だ。

巻いた長い髪にスカートを履いているから、まず間違いない。

ボックスタイプの軽自動車に身を隠して見ていると、女はバッグからなにかを取り出して、助手席のドアにあてた。


まさか。

ガリリ、と耳障りな音を聞いて、気がついたら飛び出していた。



「なにやってんのよ」



勢いに任せて突き飛ばす。

女はきゃあっと悲鳴をあげて、アスファルトの地面に倒れ込んだ。

乱れた髪の間から、怒りに燃えた目で私を睨みつけてくる。

知っている顔だった。



「堀越、由夏……」

「あなたに呼び捨てされる筋合い、ないんだけど」



彼女は忌々しげに私を睨んだまま立ち上がり、乱れた服を余裕の所作で直した。

その手にはブランド物のキーケースが握られている。


車を見ると、十センチほどの痛々しい傷ができている。

鍵で引っかいたんだろう。

無残で胸が痛む。

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