君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
無言で近づいてくると、私を助け起こしてくれる。

と思ったら立ち上がったところでぐいと顎を掴まれ、顔を横向けられた。


私の頬の辺りをじっと見ている。

バッグの金具があたったところだ。

どうも痛むと思っていたら、もしかして傷になっているんだろうか。



「大塚、説明して」



視線を堀越由夏にすえて、静かに言う。

これは…怒ってる。

つい私まで萎縮して、小声になった。



「彼女、だったんですよ、車、傷つけてたの」



偶然見つけて、と言う前に、新庄さんの怒りが燃え上がったのを感じて言葉が続かなくなった。



「俺になにか、恨みでも」



静かな声が、ぴりぴりと空気を震わす。

尊敬に値することに、堀越由夏は平静を保った様子で応えた。



「恨みといえば恨みかも。新庄くん、全然私のこと覚えてないし、同じ高校だったのよ?」

「それで?」



新庄さんの苛立ちが募っているのがわかる。

まさか、本当に殴ったりしないだろうか。


女性相手にそれだけはやめてほしくて、思わず上着の袖を掴んだ。

それで私の存在を思い出したのか、ふっと新庄さんの緊張が解けた気がした。



「大塚、乗れ」

「え」

「帰るぞ」



言い置いてさっさと運転席側に回る。

慌てて私も助手席を開けようとしたら、無視されて頭に来たのか、堀越由夏が割り込んできた。



「バカにするのも、いい加減にしてよ」



そう叫んで、鋭いヒールのついたパンプスを助手席のドアめがけて蹴り下ろした。



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