君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
怒りで声が震えるのを抑えられない。

私のためだって?

なにがどう私のためなんだ。



「教えてあげます、そういうのはね」



あなたが決めることじゃ、ありません。

目を見て言うのが精一杯で、その後の新庄さんの表情を見ることはできなかった。

一目散に車を降りて、マンションへ走る。


応えられないとか、私に興味がないとか、どんな返事でもよかったのに。

そんな理由で、どうやってあきらめろっていうの。


大事にしてくれなくていいから私を見てって、そう言えば考えてくれるの。

卑怯者!


いつの間にか涙が出ていて、部屋の前に着いた頃には鼻をすすっていた。

おぼつかない手つきで、バッグから鍵を取り出して鍵穴に差す。

感情に任せて荒っぽく回し、ドアノブを引くと、なぜか鍵がかかってしまっていて開かなかった。


え…?


朝、鍵をかけ忘れたんだろうか。

こんなときに、なんて間抜けな。


こぼれてくる涙を指で拭きながら、もう一度鍵を差し込もうとする。

そのとき、内側から鍵が開けられる音がした。


足がすくんで動けなかった。

どういうこと。

どういうこと。


どういうこと…。

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