君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
頭はものすごいスピードで回転するのに、なにひとつまともに考えられない。
ノブがゆっくり動く。
逃げなくちゃと思いながら、目が離せない。
お帰り、と声がして、バカみたいにそれに反応して顔を上げると、見たこともない男の人が、私の部屋の玄関にいた。
悲鳴をあげたつもりだったけど、成功したかはよくわからない。
男に腕を掴まれた。
妙にそっと掴むその仕草が逆に恐ろしくて、ぞっとして、頭を抱え込むように抱きすくめられたときは、恐怖より気持ち悪さが勝った。
吐き気がする、男の体温と臭い。
もがけばもがくほど絡みつく湿った肌。
男がなにかつぶやいている。
耳鳴りみたいな音に満たされて、何も聞こえない。
いっそ気を失ってしまいたい。
そう願ったとき、鈍い音がした。
私は放り出されるように床に倒れ込んだ。
男の腕から解放された安堵で、咳き込むような呼吸に襲われた。
自力で身体を起こすより先に、乱暴に腕を引っ張られて、誰かに抱きとめられた。
息ができないくらいの力で、私を抱きしめてくれる腕。
ああ、この匂いなら、知ってる。
「新庄さん…」
──一緒に大事にしてくれるんじゃなかったのか。
私の好きな声がした。
──だったら自分のことも、大事にしてくれ。
やっぱり聞いてたんだ。
やっぱりこの人、最低だ。
私、やっぱり、この人が好きだ。
ノブがゆっくり動く。
逃げなくちゃと思いながら、目が離せない。
お帰り、と声がして、バカみたいにそれに反応して顔を上げると、見たこともない男の人が、私の部屋の玄関にいた。
悲鳴をあげたつもりだったけど、成功したかはよくわからない。
男に腕を掴まれた。
妙にそっと掴むその仕草が逆に恐ろしくて、ぞっとして、頭を抱え込むように抱きすくめられたときは、恐怖より気持ち悪さが勝った。
吐き気がする、男の体温と臭い。
もがけばもがくほど絡みつく湿った肌。
男がなにかつぶやいている。
耳鳴りみたいな音に満たされて、何も聞こえない。
いっそ気を失ってしまいたい。
そう願ったとき、鈍い音がした。
私は放り出されるように床に倒れ込んだ。
男の腕から解放された安堵で、咳き込むような呼吸に襲われた。
自力で身体を起こすより先に、乱暴に腕を引っ張られて、誰かに抱きとめられた。
息ができないくらいの力で、私を抱きしめてくれる腕。
ああ、この匂いなら、知ってる。
「新庄さん…」
──一緒に大事にしてくれるんじゃなかったのか。
私の好きな声がした。
──だったら自分のことも、大事にしてくれ。
やっぱり聞いてたんだ。
やっぱりこの人、最低だ。
私、やっぱり、この人が好きだ。