君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「指紋って初めて採られました…」

「違う、あれは拇印だ。記録には残らない」



結局、マンションの住民に通報され、警察沙汰となってしまった。


調書を作るからと言われ、翌日、私たちは警察署を訪れた。

指についたインクは、こすってもなかなか落ちない。

詳しいですね、と言うと、新庄さんは姑息にも沈黙で応えた。


昨夜、私は逆上した新庄さんというものを見た。

私の無事を確認したら、とりあえず気は休まったらしく、だけどその分、怒りの矛先は男に向き、最初の一撃でほとんど失神していた男を力まかせに揺さぶり起こすと容赦なくもう一発。

さらに一発、そして一発。

さすがにそのへんで私が止めに入った。


知らない男と思ったけれど、今日、警察から知らされて気がついた。

彼は、駅前のコンビニの店員だった。



「そんなに気に入られるような、なにをしたんだ?」



新庄さんが不思議そうに聞く。

そんなの、私が知りたい。


でも人を好きになるきっかけなんて、たぶん当人以外にはわからない。

ひょっとしたら当人にすらわからない。

好きになる方法も人それぞれ。


そういうことなんだろう。



「大人だな」

「許せませんか」

「俺のものを傷つける奴は、許さないね」



…あ、車のことか。

ドキッとして損した。

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