君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「彼女は、もうやらないでしょうね」

「そうだといいがな」



たぶん、やらない。

あのプライドの高さなら、事が露呈した後までこそこそと悪事を働いたりしないだろう。



「出社する前に、なにか食べてくか」



気がつけばもうお昼をだいぶ回っている。

なんだか結局、元通りの雰囲気になってしまった。


ゆうべ、なかなか立ち上がれなかった私を、新庄さんは膝をついて抱きしめてくれた。

話は最後まで聞け、と私を叱った。

悲鳴は聞かなかったと言うから、やっぱり私は声を出せていなかったらしい。


わかってると思うが、と前置きをして話しだす。



『俺は女を大事にしたりとか、そういうのがあまり、うまくない』

『でしょうね』

『仕事より優先させることはないし、へたしたら車より下かもしれない』

『最低ですね……』

『だから、俺なんかやめてほしいんだよ』



それを聞いたら、すとんとなにかが私の心に落ちてきた。


なんだ。

なあんだ、そういうことか。

この人、やっぱりバカだ。


名残惜しかったけれど、身体を少しだけ離して新庄さんの目を覗き込む。



『教えてあげます。そういうのはね』



もう、大事にしてるって言うんですよ。

今だって、こうして追いかけてきてくれた。


新庄さんは、一瞬ぽかんとして、しばらく考え込んで。

ようやく、そうかな、とだけ言った。



「『そうかな』って、なんだよ……」



思わずひとりごちてしまう。

新庄さんの中で私の言葉がどう消化されたのか、よくわからない。

だけどあまり気にならなかった。


だって確実に大事にされている。

もしかしたらだいぶ前から、私はそれをわかってた。

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