君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「ねえ、なんでいるの? なんでこの人、いるの?」
次第に空っぽになっていく部屋に、彩の声が響く。
指を差された当人は、それを軽やかに流して引越し業者と話をしている。
私はといえば、微妙に残った引越し荷物を今ごろ梱包していた。
「大塚、もうトラック出るぞ。お前も行けよ、鍵は俺が返却しとくから」
「あたしがやっときます!」
彩が負けじと挙手すると、じゃよろしく、とすんなり鍵を渡す。
「俺たちは、先行ってるから」
気楽な調子で私の肩を抱き、ふたりの上着をさっと取り上げて部屋を出る。
ちょっとお!という彩の叫びは、容赦なくドアで遮断された。
快晴の空の下に出たところで、新庄さんは私から手を離した。
残念に思っていると、顔に出ていたらしく笑われる。
子供にするように後頭部をぽんぽんと叩かれて、まあいいか、と思ってしまう。
なんだか、ずっとこんな繰り返し。