君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「おい、乗れよ」
ぼうっとしていたらしく、いつの間にか車を停めてある場所に来ていた。
助手席のドアには、まだ傷跡がある。
傷のある車は傷を呼ぶから、早く直したいと言っているけれど、まだその機会がないみたいだ。
車があったらなにかと便利だろ、と引っ越しの今日来てくれたわけだけれど、実際のところ圧倒的に便利だ。
コンビニで新しい掃除用具を買って、新居に向かう。
「明るいな」
「どうせ昼間はいないからとも思ったんですけど」
やっぱり、光の差しこむ部屋にしてよかった。
ここで始める、新しい生活。
そもそもあの店員が捕まった今、引っ越す必要もなくなったように思えたんだけど、バカか、と新庄さんに一蹴された。
母に引越しの理由を話したら、ものすごく心配されて怒られた。
置き引きに遭ったとき、私の部屋の鍵も一緒に盗られたから鍵を替えろと言ったはずだと。
もう二度と、母の話を適当に聞いたりしないと心に誓った。
「このくらいの広さが、落ち着くよな」
「新庄さんの部屋は?」
「1LDK」
「それはひとりだと広いですね」
うんまあ、という感じの応えが返ってきて、ぴんと来た。
「…誰かと一緒に住んでたんですね?」
「一時期だ」
あたり前だ。
今でも住んでいたら、最低どころの騒ぎじゃない。