君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
『聞いてるの、恵利?』
「聞いてる聞いてる」
もうじき日付が変わろうとしている。
奇跡のスピードで下案をまとめて、新庄チーフのOKももらい、久々に22時より前に会社を出ることができた。
1Kのマンションに帰り、シャワーを浴び、冷えた炭酸水をグラスに注ぎ、半分ほどあけたところで実家の母から電話がかかってきた。
もっと帰ってきなさい、身体は大丈夫?
この間置き引きに遭ったバッグが戻ってきたのよ、物騒だから気をつけてね。
お米足りてる?
お隣のお姉ちゃん、結婚するんですって。
等々。
眠い。
乾いた肌にさらっと触れる部屋着が気持ちよくて、母には悪いけれど、今にも寝てしまいそうだった。
「お母さん、ごめん、もう寝るよ」
『また疲れた声出して、大丈夫なの?』
ちゃんと食べてるの、と心配そうに言う母に、大丈夫とうけあって電話を切った。