君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
ランチから戻ると、赤字の入った提案書がデスクに載っていた。
「早っ」
午前中にチーフに提出したものだ。
昼から外出すると言っていたので、チェックしてもらえるのは帰ってきた後だと思っていたのに。
チーフは他の案件も抱えているはずで、そもそも午前中は、ほとんど席にいるところを見なかった。
鬼というより神だよもう、とため息が出る。
デスクについて、提案書をじっくり眺めた。
クセはあるけれど、男の人にしては綺麗な字で簡潔に指摘が入っている。
いちいちもっともで、ぐうの音も出ない。
「”根拠薄弱”かあ」
追加のデータ、探さなきゃ。
「何か手伝おうか? 俺、今日はちょっとあいてるから」
「ありがとうございます!」
難しい顔の私を見かねたらしい高木さんの申し出に、一も二もなく飛びついた。
「近距離通信を使った施策なんですけど、想定される効果に裏づけがほしくて。マーケのデータにないか、あたってもらえますか」
「了解」
「今度、高木さんがテンパったら絶対手伝いますから」
「そういう予言、やめてくれる?」
周囲から陽気な笑い声があがる。
誰もが毎日くたくたになるまで働いているけれど、それでもみんな、楽しむことには貪欲だ。
私の好きな、このチーム。
よし、と気合いを入れ直す。
残りの修正を急ごう。
再提案のプレゼンは、明日。
ここで方向性を決めないと、スケジュール的に後がない。
早く仕上げて、今日はちゃんと寝る。
そして明日に備える。
手帳を開いて、この後の予定がないことを確認すると、集中、と自分に暗示をかけて、ラストスパートに入った。