君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
もう何度目かで、腕時計を見る。
クライアントのビルの会議室で、私はチーフとふたりきりだった。
本間さんや彼の上司を相手に、修正案の提案を終えたところだ。
『30分ほど時間をください』
そう言って彼らは別の会議室へ去っていった。
その30分は、もう過ぎようとしている。
何か、足りなかったか…。
万全を期したつもりだったけれど、だんだん不安になってくる。
修正の意図を、汲みきれていなかった?
あと一歩の魅力が、提案書に欠けていた?
残り期間で本当に実現できるのか、疑問視された?
ここで決まらないのは、厳しい。
今からさらに提案を修正したところで、タイムリミットが先に来て、誰もが不本意な結果に終わってしまう可能性が高い。
何かしていないと落ち着かず、意味もなく手帳やら携帯やらをいじってしまう。
ほどよく空調が効いている部屋なのに、じっとりと汗が出てくるのを意識した。
「大塚さん」
「はい」
いきなり呼ばれて、飛びあがるほど驚いた。
隣でノートPCを叩いていた新庄さんが、こちらを見ている。
「大丈夫だ」
「えっ?」