君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「あれっ」
ランチから戻ったら、新庄さんが席にいた。
節電のため、昼休みはオフィスの電灯が消える。
そのうす暗いフロア内で、彼はPCのモニタの明かりを頼りに書類を整理していた。
「午後はお台場じゃなかったんですか?」
みんなお昼に出払っていて、フロアにはまばらにしか人がいない。
自分の声が思ったより響いて、それがいかにもうれしそうな声だったことにちょっと慌てた。
「高木に任せてきた。社内にいないとできない仕事が、いい加減たまってきて」
言いながら小気味よく書類をえり分けていく。
データ化と言いつつ、いっこうに紙が減らないのはなぜなんだろう。
「久々ですね、デスクにいらっしゃるの」
純粋に感想を言ったまでなのだけれど、まるで恨み節みたいになった。
反省していると、新庄さんが手を止めてこちらを見る。
「なかなかそっちを手伝えなくて、悪かった」
表情に、いつもの気迫というか、威圧感のようなものがない。
相当疲れてるみたいだ。
大丈夫ですか、と聞こうとしたら、新庄さんが先に口を開いた。
「こっちは今日でひと区切りした。明日からは、そっちに合流できる」
「本当ですか」
露骨に弾んだ声を出してしまった。
だって素直にうれしいのだ。
たとえほとんどがメールと電話でのやりとりとはいえ、彼が物事をざくざくとさばいていく手際を覗くのは本当に楽しかった。
それからちょっと迷った時、自信が持てない時に、私を助けて瞬時に判断を下してくれるあの心強さ。
たった3週間組んだだけで、新庄さんの仕事ぶりは私をすっかり魅了していた。