君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
至近距離で顔を突き合わせたまま、私たちはお互い呆然としていた。


新庄さんが、覆いかぶさるようにして私を車に押しつけている。

触れ合いそうなほど近くに、私を見下ろす瞳がある。


なんとか先に口を開いたのは、新庄さんだった。



「なにやってるんだ? こんなところで」

「なにって、か、帰るところです」

「じゃなくて、駐車場でだよ」



そう言った後、自分たちの体勢に今さら気づいたのか、慌てたように身体を離す。



「悪い」

「いえ」



重みから解放されて、私はようやくまともに息を吸うことができた。


引きはがすように身体を起こすと、あちこちが痛む。

乱暴に掴まれた二の腕は、ぴりぴりとしびれていた。


状況が飲みこめない。

それは新庄さんも同じみたいで、あきらかに困惑した顔で私を見ている。



「ええと、渋い…車があったので、近くで見ようと思って」



とりあえず、私がここにいる理由を説明すると、新庄さんが驚いたように眉を上げた。



「わかるのか、そういうの」



元彼の、とか言う場面ではないと思い、まあちょっと、と曖昧に応える。



「新庄さんこそ?」



さっきの暴力は、一体なんだったのか。

新庄さんは落ち着かなげに視線を動かし、悪かった、と言った。



「殴られるかと思いました」

「殴ろうと思ってたから」



えっ。



「最近、こいつ置いておくと、悪さされることが多くて」 



言いながら親指で車を指す。

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