君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
新庄さんは慣れた仕草で箱から一本くわえると、ライターで火をつけた。

窓を少しだけ開けて、気持ちよさそうに煙を吐き出す。


赤いパッケージ。

かなりヘビーな種類だ。


気づけばシートも少しヤニの臭い。

助手席のバイザーには、ネズミ捕りの探知機が無造作に取りつけられていて、よく見ようとバイザーを下ろそうとしても、探知機が邪魔で動かせない。


これは…。



「いかにも、女いませんって感じの車内ですね」



思わず、思ったことが口から出た。

くつろいだ様子で、窓枠に肘をかけて運転していた新庄さんが、焦ったようにこちらを向く。



「そうか? でも、前からこんなもんだぜ」



…つまり、以前は彼女がいたということだろうか。

そして今はいない?


浮かぶのは秘書の顔。

でもそんなことは聞けるわけもなく、車内には沈黙が下りた。


夜で、ふたりで、車という密閉された空間の中で、ベールに包まれた新庄さんのプライベートを探るなら、今しかないと思うのだけれど。

そんなにすぐになにかを変えるのは、難しい。



「車」

「はい」

「好きなのか」



しばらく無言だった新庄さんが、突然口を開いた。



「詳しそうだから」

「あ…ええと」



こんな話、していいものか。



「元彼が、好きで」

「ああ」



一応正直に応えてみたけれど、それきり会話は終わった。

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