君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「はい!」



思わず背筋を伸ばす。

こんなふうに呼ばれるのは緊急時だ。


席にいるチームの面々も、何事かと見ている。



「出かけるぞ、栃木だ」

「テストコースですか」



栃木と聞いてぴんと来る。

自然に囲まれた敷地で、明日、イベントの冊子に使う写真を撮る予定だった。


資料をかき集めてフォルダに入れ、バッグと上着を引っつかむ。

なにがあったか聞くのは、後だ。


新庄さんは携帯を肩ではさんで会話しながら、手早く荷物をまとめている。

直後の予定をキャンセルしているらしい。

これは、相当ななにかがあったんだ。


その隙にPCで電車の接続を調べると、最速でも到着は3時間半後だった。



「どのくらいかかる」



電話を終えた新庄さんが、私の肩越しに画面を覗き込んで、小さく舌打ちする。

この到着では遅すぎるんだろう。

しかもテストコースは最寄駅からさらにタクシーで30分の場所だ。

でも、これより早い電車はない。



「車だな」

「え」

「2時間で着く、行くぞ」



さっさと出ていく新庄さんを、急いで追いかける。


車?

新庄さんの? また?


チームメイトたちの「車って?」という声が、背後に聞こえた。



< 37 / 126 >

この作品をシェア

pagetop