君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「はい!」
思わず背筋を伸ばす。
こんなふうに呼ばれるのは緊急時だ。
席にいるチームの面々も、何事かと見ている。
「出かけるぞ、栃木だ」
「テストコースですか」
栃木と聞いてぴんと来る。
自然に囲まれた敷地で、明日、イベントの冊子に使う写真を撮る予定だった。
資料をかき集めてフォルダに入れ、バッグと上着を引っつかむ。
なにがあったか聞くのは、後だ。
新庄さんは携帯を肩ではさんで会話しながら、手早く荷物をまとめている。
直後の予定をキャンセルしているらしい。
これは、相当ななにかがあったんだ。
その隙にPCで電車の接続を調べると、最速でも到着は3時間半後だった。
「どのくらいかかる」
電話を終えた新庄さんが、私の肩越しに画面を覗き込んで、小さく舌打ちする。
この到着では遅すぎるんだろう。
しかもテストコースは最寄駅からさらにタクシーで30分の場所だ。
でも、これより早い電車はない。
「車だな」
「え」
「2時間で着く、行くぞ」
さっさと出ていく新庄さんを、急いで追いかける。
車?
新庄さんの? また?
チームメイトたちの「車って?」という声が、背後に聞こえた。