君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「あの、その後、車、いたずらされてませんか」
空気を変えようと、話題を振った。
「ん? ああ、今のところ無事」
「どんな感じだったんですか?」
思い出すだけで不愉快なんだろう、新庄さんが顔をしかめる。
「ボディに傷をつけられたりとか。ミラーが割られてた時もあったな」
それはひどい。
「修理が追いつかなくて、いくつかはそのままにしてある」
「こういう車、目立つから…」
「もっとあからさまな車、いくらでもあるだろ? 周りは無傷で、俺のだけってのが解せない」
「心当たりはないんですか? 犯人というか」
あったらいいんだがな、と冷静な声が応えた。
犯人に同情したくなるような目つきだ。
実際あの後、新庄さんに掴まれた二の腕には、指の跡が赤い痣になっていて仰天した。
服が破れなかったのが奇跡だ。
「私が犯人じゃなくて、残念でしたね」
「まったくだ」
心底残念そうに言うので、思わず笑ってしまう。
「笑いごとじゃない。やっと後悔させてやれると思ったのに」
「女だってことくらい、遠目にもわかったでしょうに」
「女だからなんだ、人の車傷つけてもいいってのか」
子供のような言い草で、本気で怒っている。
こっちはもう、笑いがとまらなかった。
「せめて、オフィスのビル内に入れたらどうですか?」
「あの駐車場、0時以降は出せないんだ」
一度は検討したんだろう、ふてくされたような顔で応える。
笑いすぎて、涙が滲んでくる。
この人、本当にただの車好きだ。
笑われすぎて腹を立てたのか、新庄さんはむっつりと黙り込んだ。
そんなところもおかしくて、私はさらに笑った。