君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
お互い疲労困憊だったので、帰社できる時間ではあったけれど寄らずに帰ることにした。

今回もマンションまで送ってくれると言うので、素直に甘えた。


新庄さんは私の案内も必要とせず、すいすいと車を走らせる。

覚えてるんだ。


たったの一週間前なんだから、道くらい覚えてるだろうけど、この人に家を知られているというのは、不思議な気持ちがする。

もうじき最寄り駅が見える頃、新庄さんが口を開いた。



「もうこの企画も、ひとりで大丈夫だな」



一瞬、なんのことだかわからなかった。

やがてじわじわとその意味が浸透して、心に突き刺さった。


新庄さんが、企画を離れるときが来たのだ。



「いっそ最後まで入ればと課長からも言われたんだが、大塚さんなら充分やれると伝えておいた」



ずしんと、急に空気が重くなって、全身にのしかかる。

その評価はうれしい。

けれど高いところから急に手を放されたみたいに、どこまでも落ちていくような気がする。


私じゃ無理です。

そう言えたらと思うけど、仕事人としてのプライドが、それだけは許さなかった。



「……はい」

「当日は手伝う」



すなわち、それまでは、もうサポートしないってこと。


そんな肩の荷が下りたような顔、しないでほしい。

楽しかったのは私だけですか。

もっと、と思うのは、やっぱり私だけですか。



「今まで、ありがとうございました」



やっとのことでそう言うと「お別れするわけじゃないんだから」と笑う。

人の気も、知らないで。

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