君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
新庄さんは、マンションの前に車をつけてくれた。

ドアを開けて足を下ろすと、夜の空気が、気を緩めたら泣きそうな顔を冷やした。


沈んだ心に追い打ちをかけるように、ここ最近の記憶がよみがえって、つい周囲を見回す。



「どうした」



動きをとめた私を不審に思ったのか、新庄さんが尋ねた。

かまってちゃんじゃあるまいし、こんな話、するものじゃない。

そう思いながらも、心細さと名残惜しさに後押しされて口を開いた。



「最近、ストーカーというか、なにかそういうの、感じることがあって」



誰にも言っていなかった。

自分でも半信半疑なのに、人に言っても笑われるだけな気がしたからだ。


でもたしかに、駅からマンションまで、ぴったりとついてくる足音や気配を感じたり、ロックしたはずのポストが開いていたり、そういうことが続いていた。



「いつから」

「この1ヶ月…くらいです」



口にしてみると、気味の悪さが現実味を帯びてきて、ただでさえ暗い気分がさらに冷えて落ち込んだ。



「危ないな、実家は遠い? 多少無理をしても、そこから通勤するわけにいかないのか」



思いがけず親身な応えをもらって、面食らう。



「地方なので…あの、思い込みだとかって、言わないんですね」



尋ねてみると、意外な応えが返ってきた。



「俺も以前、あったんだ」



思わず、ぽかんと新庄さんを見返す。

もしかしてこういうのは、私が思っているより、よくあることなんだろうか。



「続くと、ほんと神経がまいるよな。しかも女性なら、相当きついだろ」


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