君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
scene.05 自覚
自分が嫌いになりそうだ。
たかが仕事の配置のことで泣くとか、アホにもほどがある。
「うわっ、どうしたの、ひどい顔」
朝、駅からの道で行きあった彩に驚かれた。
「むくみがとれなくて…」
「飲みすぎ? 平気平気、こうやって老廃物をリンパ節に流してさ」
教えてくれたマッサージを素直に実行しているうちに、会社に着いた。
「じゃ、昼ね」
彩とはフロアが違うため、エレベーターで別れる。
マッサージで崩れたメイクを直そうと、オフィスに入る前に化粧室へ向かった。
鏡の中の自分は、彩の言う通り、ひどい顔。
でも、むくみは少しとれたかも…。
きちんとメイクを直すと、いつもとそう変わらないようにも見えた。
ついでに髪も少し整えて、化粧室を出る。
出たところで、新庄さんとばったり会ってしまった。
「おっ」
「あ、おは、ようございます」
なにどもってんだ、私。
「おはよう、大丈夫だったか」
「え?」
新庄さんは足を止めて、周囲を気にするようにちらっと見回した。
「変な奴に困ってるって」
「あ、はい。大丈夫でした、昨日は」
というか、それどころじゃなくて、気配にも気づかなかった。
そんな話をしたことすら忘れていた。
「そうか、よかった」
そう言って、新庄さんは軽やかに階段を下りていく。
これまでなら、今日の予定の話とか、お互いの情報共有とかをしていた場面なのに。
本当に離れたんだ、と実感する。
なにか、ぱかんと空いた空間にひとり取り残されたような、そんな気分だった。