君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
イベントまでの日々は、目が回るほどの忙しさだった。
ここまで来ると、もう上長の確認や承認という段階は過ぎている。
だから新庄さんとの会話はほとんどなかった。
それを寂しいと感じている余裕もなく、あっという間にイベント当日が来た。
金土日の三連休の後半を使った、二日間のイベント。
野外の音楽イベントのメインスポンサーとして本間さんの会社が出資し、会場に特設ブースを設けるという内容だ。
飲食なども提供する大規模な出展なので、うちのチームも総出で対応している。
ほかの人はシフトで交代制だけれど、主担当である私はほぼ出ずっぱり。
精神的にも肉体的にもハードな二日間だ。
一日目は無事終了し、今は日曜日の午後。
『大塚さん、とれるか』
イヤホンから、シーバーを通した新庄さんの声が流れてきた。
大塚です、と襟元に留めつけたマイクに向かって応答する。
『ブースが空いてるうちに昼食とってくれ、その間俺が代わるから』
「はい、今搬入口なので、五分後には控え室に行きます」
『了解』
『新庄くん、僕も代わってよ』
『課長はいらしたばかりでしょう』
『トイレ』
『高木が戻るまで我慢してください』
お客様に聞こえないのをいいことに、無線上では好き勝手な会話が繰り広げられている。
シーバーをつけているスタッフは、真面目な顔を保つのに必死だ。