君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
ドアの外のふたりの会話は、残念ながら聞こえてこない。

彼女が手をつけなかったお茶を流しに捨てて、お弁当を食べることにした。


やがて新庄さんが控え室に入ってきた。

本当にすぐだ。

堀越さんの姿は見えないから、そのまま帰ったんだろう。


新庄さんは心なしかげんなりした顔で、冷たいお茶をコップにそそいだ。



「悪い、ブースに行けなくなった」

「え?」



向かいの椅子に、乱暴に腰かける。



「常務が、じきにここに来る。プライベートで来てるらしい。アテンドを頼まれた」

「ええ? なんで新庄さんが。せめて管理職がやるべきでしょう」

「課長は会場のことをよく知らないし、ブースの説明もできない。立場上同行してもらうけど、俺も行かざるを得ない」

「それは、たしかに……」

「すまん、それ食ったらすぐブースに出てくれ。入れ違いに俺と課長が抜ける」

「はい」



新庄さんは深いため息をついて、髪をかき上げた。

だけどそういう話なら、最初から課長に持っていくのが筋のはずだ。

どうして堀越さんは、直接新庄さんに頼んだんだろう。

やっぱり…。



「…そういう関係じゃ、ないからな」



私の考えを読んだのか、新庄さんが腕組みをしてこちらをにらんでいる。



「あ、そこまでは聞いてたんですね…」

「課長の言うことなんか、信じるな」



そこまで言わなくても。

< 50 / 126 >

この作品をシェア

pagetop